2015-01-01から1年間の記事一覧

Roof of copper color

気がついたら、そこに僕はいる。 緩やかだけれども長くつづいていて、峠はかなり遠くに青くかすんでみえている、 そんな坂道に立っていた。 振り返って坂の下の方をみかえす。 坂の半分ぐらいの所に、茶色屋根の建物が道に沿っていくつも建っているのが見え…

あじわいずくり

不味くはなかった。 生まれて初めて食べてみたのだけれど。 少し時間のたたった今では美味しくいただいたのかもしれないとさえ、思う。 でも、二度と口にはしない事は解っている。 こんなことはしてはいけないぞと僕の中で、 もぞもぞとした訴えてくる感覚が…

便利なところの前に

南の土地で育ったあなたは、言う。 とても素晴らしいモノなんでよ、とにこにことほほえみながら。 なぜ素晴らしいのかは、言ってくれない。 これだあれば信じられないくらい便利な毎日が、手に入るんですよ、 と真剣な眼差しを向けて言う。 どうして便利にな…

壁ねこ

君がたった今一口の刀を手にしたら何をすると、男が尋ねる。 君は男の話んかちっとも聞いてやない。だってゼンハイザーの カナルタイプイヤホンで、周りの音は一切遮断してハルシノゲン を聞いていたのだから。 男の話した言葉のあと、酒の匂いが周りに広が…

気がついた時は満席

ずうっと以前の時代から トンネルの中で横たわる赤黒い暗闇 餡パンの断面のように底にたたずむ闇黒 どうやらこの少し先にあるらしい ラウンド・ミッドナイト そこでも楽しんでみよう ウエイト・アンド・ホープ 望んだ未来がやって来た 「クラシカ」 富士山晴…

のぞきこむ

頭のなかで起こっている問題と現実に起こっている問題を きちんと区別して対処しなさい。あなたはそれらをゴチャゴチャに しているのよと、ミセス・ヤーソンは言う。 内と外の混同か、カッブを葡萄の蔦の描かれたソーサに戻して、 デックスは頷く。 夢を夜見…

月の湖

宇宙で水は液体なのか、固体なのか考えている時左側の 路地から飛び出してきた車に足を踏み潰された。 そんな奇妙な書き出しの小説を図書館で昨日借りた。 主人公の足は治ることはなくカーボン製の義足を使って歩行する ことになる。そして、彼らと戦う事に…

太陽が燃えたことはただの一度もない

初めて見たときから気にいらない奴だった。 いつも少しうつむき加減でトボトボと歩いて来ては、 だまって角の席に座って本を読み出す。 こちらは入ってくるたびに必ず笑顔を作り、挨拶している。 また今日も奴がやって来た。 こちらは明るく挨拶する。 ちら…

てまえのひとみ

抽斗の奥に大切にしまってある一枚の風景がある。 いぜんにはそんざいしていた街だから大切なのでは、ない。 今でも何変わりなくその土地の上にあったとしても、あまり関係ない。 だいたいその風景が、何も写っていない物であったとしてもその風景はやはり、…

リンク先は消滅すでにしております

お名前をどうしても思い出せないのです。 何というお名前でしたでしょうかと、その人に尋ねた。 わたしの名前が御知りになりたいのですか、とその人は言う。 ええ、以前にはとても良くアナタと会っていたのを覚えています。 何度と無くお話したり、一緒に何…

まっかちん

その一 その気持ちのよい日の午後に、 ぼくたち仲良し3人は仲良く日なたぼっこをしていた。 その二 君たちは、もう行かなくちゃと言い残して突然に立ち上がった その三 どこかに向かって泳ぎだしてしまった その四 何処に向かって行ってしまったのだろう。 …

足もとに浮かぶ星

梅雨時になり毎日ジメジメとした日がづづきますが、 いかがお過ごしですかと、ブラスチックのトランジスターラジオから 女性アナウンサーがカラカラに乾いた声で挨拶する6月の午後。 日差しが一年で一番強くかんじられるは、6月。 昼の時間が夜の時間よりも…

くっついていててて

新しいお家を買おうと思うの。 おうち?タニシはチューインガムを飲み込みそうになってチコを見た。 そこに誰が住むのだろうと思った。 白い壁で赤い屋根のオ・ウ・チ。 天上からぶら下がっているハエ取り紙を見上げながらチコは、呟いた。 その家は何処にあ…

濃い色となって響く音

財布の中が、アルミニウムの硬貨だけになってしまう時。 それは暖かなボカボカとした日差しの下平らな道を進んで行くと突然、道がなくなって 草がボウボウ生えた原野に行き着いてしまう感じなのだろうか。 膝ががくがくして僕はその場に、しゃがみこんでしま…

晴れた6月

真上から強い光を太陽が放つので、木陰に逃げ込みたくなることがたまにある。 とくに、まだ完全に夏毛に生え変わる前のこの季節には。 しばらく何も食べてないことを腹がつげているのだけれども、四本の足はしっかりと 地面の土にふんばって、歩を先に進めて…

取り残される虫

思い出すところがある。 そこは河のそばらしい、水が流れる音が聞こえてくる。 足をすこし緩めて、頭のなかの風景に目を凝らしてみる。 振り返る、 光は横から照らす、朝なのだろうか。 それとも夕暮れかもしれない。 見おろしてベットの上で四回目の梅雨時…

のどが渇いていた。 朝、宿を出る前に水を一口飲んでから、 かれこれ半日以上歩き通しだった。 いま何という場所を通過しているのか、皆目見当がつかないのだが、 おそらくこのまま進んでゆけば日が暮れる前に次の宿場に辿り着くだろう。 そして、 明後日に…

かわはかわかず

川は流れていつでも海に到着するばかりでない。 水はひくい方へ常に流れて行くとしても。 そこは海面よりもひくいところ。 ここを流れるみずは、どこへ流れていけばよいのだろう。 みずは、だからみずたまりをつくり沼となる。 海にいけないあたりのみずたち…

0.01

彼女自身の体の中を通っていくうちに取捨選択して身につけることが 出来た物事だけしか彼女に理解することができない。 彼にはそのことが理解らない、だから彼とは決して分かり合うことはない。 と、彼に向けて言葉をはっしても無駄だからじっと彼を彼女は見…

なっ。さっしてくれよ

わたしには解らない。 あなたが言う辛い赤い実が、 苦い黄色い実にわたしには、思う。 あなたが大好きなジビーテの歌声が、 凍りつく真夜中の厳冬に聞こえる風音のようで、 わたしは好きではない。 そんな時にあなたは言う。 なっ。さっしてくれよ。 わたし…

Should I stay or should I go

何処へも続いていない道にたどり着く。 突然道は終ってしまう。 道とは多くの人々が歩いている跡、 多くの人がある時期に歩いている跡、 人々がそこを歩かなくなれば、たくさんの人たちの生活に必要とされた道でも、 道は道では失くなり平原へと戻って行く跡…

プルトップ

缶ビールを手渡してくれた時、ほんの一瞬君の指の腹が僕にふれる。 僕の手には沢山の水滴が浮いている良く冷えたアルミ缶がのこる。 プルトップ・タブを引き剥がし、缶を腰掛けたベンチの脇に置く。 剥がしたタブのベロをバネにしてタブを空中へ飛ばす。 ク…

シャッポ

そんなろくでもない帽子なんか脱いで竈の火でジリジリと焼いちゃいなさい、 オイラに彼女は言う。 とても背の高い、真っ黒だけど光りがあたる角度によって虹色に光る(烏の羽のように)そんな帽子をオイラが被っていると彼女は言う。 初めて彼女と出会って話…

ライムグリーン

初めて彼の家に行った時ドロシーは、 そこがとても懐かしい感覚のわきあがる場所であることにとても、驚いた。 ドロシーと彼女が呼ばれるのは、樫で出来た扉の中で、出会った人たちの間だけだ。 両親も双子の姉も※※※ちゃんと彼女のことを呼ぶ。 そして、彼も…

カプサイシン

生まれたばかりで柔らかく新鮮な葉を、 むしゃむしゃむしゃむしゃと僕はまた、食べた。 左側の耳はすこし内にたれさがっていて、跳ねるとブラブラと 揺れる。 短い尾っぽの先には夕暮れのススキのようなオレンジ色の毛が、 僕には生えている。 あの丘のむこ…

日傘の咲く街

この街で僕はまだ雨が降るのを、一度も経験したことがない。 カラフルで色々な太さで複雑にからまる工場のパイプの隙間から毎朝、 太陽はニヤニヤしながら必ず顔を出してくる。 昨晩さあ、あちら側で双子のクジラの姉妹から面白い話きいたんだよ、 不幸せの…

入口もしくは、出口

どうやらここが、城への入口らしい。 日がまだある時にここまでやってこれて良かったと、 Mは思った。 重い山羊革の靴を履き、ザックを背負って旅たった日、 辺りは一面凍りついていた。 乾いた雪をギュッギュッと踏みしめ、城にむけ足を踏み出した頃を ふと…

薬指のピクぴく

本当に好きな女性のためなら、 男はいくらでも我慢強くなれる。 電車に乗るとその振動で、 勃起していた頃にトキオが本で知った言葉だった。 一人の女性に我慢強くなれたことなんて、 トキオには一度もなかった。 そして、彼にはわかっている。 トキオに我慢…

割り勘

めったに一緒に出張することのない上司と、 地方に行った夜。 若い時から頭髪がうすく、今では額が後頭部までつづき、 腕には太い体毛がぎってりと生え、体臭がきつい男。 昼間の商談がなんとか上手くまとまり、彼がここまで出向いた かいもあった。 自分一…

うさぎ

トモコは小学4年生の時、 うさぎの面倒見る、飼育係だった。 二人のお姉ちゃんと、一人のお父ちゃんがトモコの家族だった。 トモコは一番最初に学校から家に戻るので、黄緑色の紐に鍵を つないでぶら下げている。 トモコちゃんのそばに寄ると飼育小屋のニオ…