割り勘
めったに一緒に出張することのない上司と、
地方に行った夜。
若い時から頭髪がうすく、今では額が後頭部までつづき、
腕には太い体毛がぎってりと生え、体臭がきつい男。
昼間の商談がなんとか上手くまとまり、彼がここまで出向いた
かいもあった。
自分一人ではとても上手く出来ませんでしたと、グラスに
何度目かのビールを部下はつぐ。
ここの焼き鳥とくべつな鳥をつかっていると、
ネットでは好評なんです、つぎは塩で注文します、後他に
なにか頼みますか。もう、お腹いっぱいだと男は答える
そうですか、そろそろ出ますか。
彼には、小学校4年と2年の娘、そして1歳のダウン症の息子がいる。
割り勘にしましょう、と言って部下は勘定をテーブルに置き、
トイレに向かう。酔った感じは全くなかったが、鏡には
薄っすらとピンク色に部下の顔はそまっている。
席にもどると、上司が入り口で会計している姿が見えた。
領収書をもられる、うん、宛名は上で。
おみあげに子供たちに何を買って帰ろうかと、
考えながら男は領収書を財布に真ん中から折りたたみ、仕舞った。