2015-04-01から1ヶ月間の記事一覧

薬指のピクぴく

本当に好きな女性のためなら、 男はいくらでも我慢強くなれる。 電車に乗るとその振動で、 勃起していた頃にトキオが本で知った言葉だった。 一人の女性に我慢強くなれたことなんて、 トキオには一度もなかった。 そして、彼にはわかっている。 トキオに我慢…

割り勘

めったに一緒に出張することのない上司と、 地方に行った夜。 若い時から頭髪がうすく、今では額が後頭部までつづき、 腕には太い体毛がぎってりと生え、体臭がきつい男。 昼間の商談がなんとか上手くまとまり、彼がここまで出向いた かいもあった。 自分一…

うさぎ

トモコは小学4年生の時、 うさぎの面倒見る、飼育係だった。 二人のお姉ちゃんと、一人のお父ちゃんがトモコの家族だった。 トモコは一番最初に学校から家に戻るので、黄緑色の紐に鍵を つないでぶら下げている。 トモコちゃんのそばに寄ると飼育小屋のニオ…

夜はやさい

カウンターに並んでアルコールを飲んでいる。 わたしは、ダイキリ。彼は、ウゾー。 言葉があるから、 うまくコミニュケーションがとれるはずだった。 そう信じていた彼はとても、くたびれてみえる。 わたしは、黒い一匹の雌猫と一緒に住んでいる。 一度も彼…

階段

午後の駅前広場。 ベンチに腰掛けて銅像のように身動きしない老人。 走り回り、飛び跳ねて母親に飛びつく子ども。 白い杖をつき広場を横切って行く一人の女。 改札階につづく階段までくると、階段の角に杖を沿わせて言った。 誰か、わたしを上まで連れていっ…

記憶していく僕と経験している僕

油のとろりと浮いた、香ばしい焼きたて秋刀魚をほおばる。 炊きたての艶々したまっ白く輝く新米を口にはこぶ。 しっかり浸かったパリパリの沢庵とともに。 そして。 ジョッキにはいった泡立つ琥珀色の液体に口をつけた。 最悪の記憶が生まれた。 あれから僕…

かなり良い時、けっこう悪い時

ぶどう酒を飲み過ぎたみたいだ。 まったく寒さをかんじない。凍ったデコボコの石畳を歩いていく。 大教会脇、静まりかえる中央広場の街灯は、根本の汚れた雪をまあるく橙色に照らす。 トラムはまだ動いている時間のはずなので、停車場で待つことにする。 手…

いろんな焼き方

K.はB.を愛していた。 父が息子を愛するように、 弟が兄を愛するように。 しかしB.は妻のように愛されたがった。 どうして自分自身として人は愛せないのだろうか。

うんめい

彼が、机の前を横切って行く時かならず、 ぷ~んと、 ウンコのにおいがする。 そのにニオイが彼女は、 嫌いじゃなかった。 なにか始まる予感がした。

春に降る雨には

僕にはそのような人物だとみえる人が、 その人自身では、 まったくそんな人物だとは考えていないことがあるように、 彼女は僕を、 まったく違った人物だと思っていたのだと、 春に降る雨にジーンズの裾を黒くぬらして歩きながら、 今頃になってはじめて僕は…

あふりか

まだそこで君たちが泣いている気が今もしてしまう 嬉しさで人は涙をこぶすことは、たびたびあるのに 君たちは笑いながら泣いている、鼻水をたらしながら パンクしてしまった赤い自転車を、押して歩くぼくのそばで

変身

二度と出会うことのないモノ達が、 たっぷり詰まった たのしくて、美味しそうで 目をつぶると、とってもよく見えてくるモノ達が 白いまあるいお皿にのった そんな朝が、こわい。

Under A Sky

下の空にはゆらゆらたたずむ雲と、新芽がではじめたユーカリの木が、沈む。 昨日は釣り人がいた庇は、からっぼだ。 水は動いている。ゆっくりとではあるけど、そちら側へ。

日の名残るときには

右手の爪で引っかかられた二の腕がズキズキする。 TVをじっと見つめている気が今頃する。

離れて眺めた時 美しくて魅せられる時

近くによって眺めてみると、そんなに美しくは感じなく。 むしろ少し気持ち悪とさえ見えてしまう。 初めてスマートフォンのスピーカーから彼女声が飛び出してきた時、 そんな予感がしたんだ。 3年半ぶりであった弟は、目の前のスプーンに向かって語りだした。

並木道

言ったじゃないかと、激しく問いただされても君の言葉は、遙か北へ向かう夜行バスの最高座席に座って行ってしまった。 春のぼやけた月の下で赤ん坊のような鳴き声をあげる猫達のようだと、ふと思う。 日が沈んだら、きつくとっちめてやらなくてはいけないよ…

ひらひら

桜の花がこの時期に大量のデータへこの国の中で、変換されていくのだろう。 でも、その瞬間に空に舞う花びらの枚数にはとうていおよばない。 そして、ひとひらひとひらが違う花びらだと気が付かれることもないように。