階段

午後の駅前広場。

ベンチに腰掛けて銅像のように身動きしない老人。

走り回り、飛び跳ねて母親に飛びつく子ども。

白い杖をつき広場を横切って行く一人の女。

改札階につづく階段までくると、階段の角に杖を沿わせて言った。

誰か、わたしを上まで連れていってください。何人かの足音が

弧をえがきながら遠ざかるのを確認して、そしてまた。

私連れて行ってください、上までと、前より大きく言った。

 

ほら、つかまりな。男が肘を杖を持つ腕にあてて声をかけた。

男のガッチリとした腕につかまり、女は階段を登り始めた。

半分まで登り踊り場までくると、女は歌い出した。

今まで気にかけなかった人たちが何人か振りかえった。

 

男も苦笑いし、女を連れて上っていく。女の声が階段に響く。

改札階に到着すると、歌うのを止めて立ち止まる。

男はついたよ、と言うと女から腕を外して大股で改札口に進んでいった。

改札で男は後ろを振り向いてみた。

白い杖の女が手を振っているのが見えた。男も女に向かって手を振った。

 

 

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