日傘の咲く街
この街で僕はまだ雨が降るのを、一度も経験したことがない。
カラフルで色々な太さで複雑にからまる工場のパイプの隙間から毎朝、
太陽はニヤニヤしながら必ず顔を出してくる。
昨晩さあ、あちら側で双子のクジラの姉妹から面白い話きいたんだよ、
不幸せのオキアミと幸せのオキアミの話。笑っちゃうんだ、知ってたこの話。
体をぐっと近付て太陽がさらに明るく周りを強く、照らしだす。
誰かが言っていた、雨が降ったら一回休みで、その日はゆっくり図書館で
本を読んで一日を過ごせるんだよと。
まだこの街で雨が降るのを、僕は一度も経験したことがない。
おまけにこの街に図書館はないし、僕は字が読めない。