カプサイシン
生まれたばかりで柔らかく新鮮な葉を、
むしゃむしゃむしゃむしゃと僕はまた、食べた。
左側の耳はすこし内にたれさがっていて、跳ねるとブラブラと
揺れる。
短い尾っぽの先には夕暮れのススキのようなオレンジ色の毛が、
僕には生えている。
あの丘のむこうには、もっと甘いジューシーな若葉たちが
たくさん生い茂っているに違いない。誘うような美味しい香りが僕の
鼻をヒクヒクと強く、動かす。
丘の先に向かって後ろ足を大地から跳ね上げる。
噛み散らかしたズタズタの葉っぱたちが、後方に流れていく。
大地、そして空中、大地、そして空中、大地、そして空中。
そして、
地上から僕は離れていく。
大空に吸い込まれて、どんどんどんどん離れていく。
脇腹にくいこむ練り辛子のような黄色い足から生えた、鋭い四本のツメ。
暴力的に押し込こまれて、僕の肉は裂け。
明るい真っ赤な薄い血はツメを染めて流れだし、僕の白い毛先から地上に向けて
ポタポタとおちていく。