便利なところの前に

南の土地で育ったあなたは、言う。

とても素晴らしいモノなんでよ、とにこにことほほえみながら。

なぜ素晴らしいのかは、言ってくれない。

これだあれば信じられないくらい便利な毎日が、手に入るんですよ、

と真剣な眼差しを向けて言う。

どうして便利になるのかも、言ってくれない。

今だけ、今回限りのみ、ご提供できるとても貴重なモノなんです、

イチゴ味のあめ玉を口に放り込んでみると、トモワ味だったのでがっかり

した時のような顔でこっそりと言う。

少し涼しくなった前の月の夜にもあなたは、そう言っていた。

 

 富士山晴男 「南の一」

 

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