太陽が燃えたことはただの一度もない

初めて見たときから気にいらない奴だった。

いつも少しうつむき加減でトボトボと歩いて来ては、

だまって角の席に座って本を読み出す。

こちらは入ってくるたびに必ず笑顔を作り、挨拶している。

 

また今日も奴がやって来た。

こちらは明るく挨拶する。

ちらりともこちらを見ずに奴は、トボトボ角の席に向かって歩く。

そして、席の前で立ち止まってじっとしている、座らない。

座れない、席には紙を貼っておいたからだ、使用禁止と。

奴の脇に行き、ここは使用禁止になってしまったんですと、丁寧に話しかけてやる。

席の上に貼り付けられた紙をじっと見つめる瞳が左右に小刻みに揺れている。

窓際の明るい席が空いています、どうぞそちらへと案内する。

窓際の席に座った。しかし本は開かず、真っ直ぐ前を向いて座ったままだった。

窓から外を見てるようには見えず、手前の窓ガラスをじっと見ているようだった。

その日から奴はここへは来なくなった。

そしていまでも、角の席は使用禁止の紙が貼ったままだ。

 

     チュロス・ジンガーソン 著 「火星からの優待」より

 

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