B2
黄色いねこがニコニコと笑いながら私に向かって飛びついてきた。
みどりのどじょうはそれを怪訝そうに見つめてながら、左手で
スマートフォンをいじってる。
灰色のコーヒーカップだった少し前みたいに、黄色いねこを私は
やさしく抱きとめるつもりだった。
しかしねこは、すこし手前の空中に浮かんで立ち止まってしまった。
うかんだねこ、手をさし出した私たちの姿をスマートフォンでどじょうが
写真にうつしかえてしまった。
思い出し
昔のことを人は【思い出】と呼んで思い浮かべる。
記憶している思い出。
すでに記憶してると思っていても、思い出せないこともある。
それは半分忘れていると、呼ばれる。
忘れていると、いや、そもそも始めから記憶の中にあるなんて全く思っていない、
出来事や形や色、そして匂い、味をふと思い出すことがある。
でも、それは過去に経験したものが甦ったことなのだろう。
では、寝ている間にみる夢の中身についてはどうだろう。
思い出せるものがあり、思い出せないものがある。
すべて自分の頭の中でのできごとのはずなのに。
さらに、その内容は過去に経験した以外のものが含まれている様に思える。
空を飛行機ではなく、腕を広げただけで飛ぶこともできる。
そして、目覚めてから思い出す。 私は空を飛んでいたと。
窓
科学者が駆け寄りこう告げた。
将軍、ついに敵の攻撃力を無効にできる装置が完成しました。
では、すぐに効果をたしかめてみよう。起動するのだ。
窓の外をむいたまま将軍は言った
科学者は装置のボタンを押した。
科学者の手を将軍はしっかりといつのまにか握り、まっすぐに科学者をみつめた。
いつか
記憶はそのつど、今この瞬間作られるものだから、
その材料は自分の頭の中だけにあるのではない。
TVを見るのが一番楽しかった時に大好きだった曲が、
道を曲がったらきこえてきたら、
まだ幼い君の笑顔を思い出すように。
ヘリックス
初めて人を本気で愛したなんてどうして言えるの?。
何度か本気で人を愛してみた後でやっと、あれが初めてだったとその時わかるのに。
むかし言われた言葉を君はいま思い出す。
ら
か る イ お も イ
いつもは 安いエイティー・セブンをたのむニックがその日は違った。
なぜ、いつも通りのものを注文しないで、店で一番高いブルートセッグなんて
酒をたのむのかと、僕はたずねた。
未来を見てきたのだとニックは答えた。
どんな未来だったのかと思ったが聞くのはやめて、僕は自分グラスの中のものを
飲み干した。
俺はリタイヤしたあとの為に金をためていたんだ。その金で老後は優雅に暮らすつもりだった。 ニックは二杯目のブルートセッグを飲みながら話し始めた。
だけれども、今日見てしまった未来は違っていた。
俺は認知症になって自分が誰なのか、糞をどこでしたらいいかもわからない状態で毎日ベットの上にいる。それが俺の未来だった。
だから、今夜この店で一番うまい酒が飲みたくなったんだと思う。
その夜からどんな酒も、ニックには先週まで飲んでいたエイティー・セブンより美味い酒になることはなくなった。
ツボミ
ピースヒル公園まで飛んでいけば5分、
歩いて9分
走れば4分で着く。
もう何年も前から、ただ歩いてそこに行っていたことにある日彼女は気がつく。
肩越しに振り向くと羽根はまだそこに付いていた。